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ペルゴレージ『スターバト・マーテル』 [Pergolesi]

■Giovanni Battista Pergolesi: Salve Regina, Stabat Mater
ACCORD 464 236-2 [DDD Stereo] (輸入盤)

ACD4642362f.JPG


【演奏】
ミーケ・ファン・デル・スルイス(S)
ジェラール・レーヌ(CT)
ルネ・クレマンシック(dir, orgue positif)
ファビオ・ビオンディ(Vn)
ヒロ・クロサキ(Vn)
マウリツィオ・ナッデオ(Vc)他

【演奏者】
ルネ・クレマンシック(René Clemencic)は、1928年2月27日、オーストリア・ウィーン生まれの作曲家、指揮者、演奏家。リコーダー、鍵盤楽器(クラヴィコード、チェンバロ、オルガン<ポジティヴオルガンを含む>)を学ぶとともに、ウィーン大学で哲学博士号を取得している。1958年にムジカ・アンティクワを創立し、中世、バロック音楽の古楽器演奏を開始、1968年にクレマンシック・コンソートを結成した。ウィーンを本拠地として、中世、ルネサンス、バロック期のオペラ、教会カンタータ、典礼劇等の発掘蘇演を行っている。
長いキャリアを持つ団体だけに録音も多いが、クレマンシック・コンソートのCDのなかでも、ウィーンの宮廷音楽家、ヨハン・ヨーゼフ・ フックスの「レクイエム」(死者のためのミサ曲)、12世紀に起源を持つ「カルミナ・ブラーナ」の二枚はとりわけ評価が高い。クレマンシック・コンソートのメンバーは固定されておらず、初期には、アンサンブル・ジル・バンショワを主宰するドミニク・ヴェラールや、アンサンブル・クレマン・ジャヌカンを主宰するドミニク・ヴィス等も参加していた。また、ルネ・クレマンシックは、母国語のドイツ語以外に、英語、フランス語、イタリア語に堪能であり、ラテン語、古高ドイツ語、中世フランス語についても研究を重ねた。1992年には、ヘブライ語のオラトリオ「カバラ(Kabbala)」を作曲している。2008年には、ルネ・クレマンシックの80歳の誕生日を記念して、テレビ、ラジオで特集番組が組まれている。
クレマンシック盤は、現在では、指揮者、指導者としても活躍するレーヌ、ビオンディに、ヒロ・クロサキ、マウリツィオ・ナッデオなど、豪華メンバーによる録音で、「明確な個性と深い情感を兼ね備えた演奏」、「残響が強すぎる録音が難点だが、随所にくわえられた即興的な装飾が聴きもの」*との紹介がなされている。廃盤の多い古楽のCDの世界で、初期の名盤が廉価で再発され、ロングセラーとなっている貴重な一枚である。
なお、レーヌは、1985年に、17~18世紀のイタリア、フランス音楽をメイン・レパートリーとするイル・セミナリオ・ムジカーレを結成し、活動の拠点としており、1997年2月に、ヴェロニク・ジャンス(S)とペルゴレージの『スターバト・マーテル』(Virgin classics)の再録音を行った。また、1998年10月には、サンドリーヌ・ピオー(S)とA.スカルラッティの『スターバト・マーテル』(Virgin classics)を録音しており、それぞれ持ち味をいかした演奏を聴き比べることができる。ロックシンガーからカウンターテナーに転じたレーヌは、これまで、古楽以外に、現代音楽、クラシック、ロックの録音を残してきたが、2007年、2008年には、ジャズとのコラボレーションを行っている。

*『古楽CD100ガイド』国書刊行会、2000年、87頁。

【曲目】
ジョバンニ・バッティスタ・ペルゴレージ
(Giovanni Battista Pergolesi, 1710.1.4 – 1736.3.17)
『サルヴェ・レジーナ』
『スターバト・マーテル』

1986年9月、ウィーンにおけるスタジオ録音(録音時間:53’41)。
2003年に廉価盤として再発売された。


【作品】
『スターバト・マーテル(Stabat Mater「悲しみの聖母」「聖母哀傷」)』は、我が子イエス・キリストが磔刑となった十字架の下にたたずむ悲しみの聖母に祈りを捧げる内容の作品である。そのタイトルは、ラテン語詩の最初の一行(Stabat mater dolorosa悲しみの聖母はたたずみ給えり)に由来する。
ラテン語詩の作者は、フランシスコ会修道士ヤコポーネ・ダ・トーディ(Jacopone da Todi, 1220-1306)とされてきたが、現在では、聖ボナヴェントゥーラ(Bonaventura,1221-1274)、あるいは、他のフランシスコ会修道士とする説が有力である。押韻の整えられた、各節8-8-7音節の3行詩から構成される全20節の詩文は、使用テキストが異なるのか、あるいは、作曲者が手直しを加えたのか、歌詞にはいくつかバリエーションが存在し、yとiなど、表記のゆれも見られる。また、聖金曜日の晩祷では、短縮バージョンも用いられた。
『スターバト・マーテル』は、一般に、聖歌というよりセクエンツィア(続唱)として扱われる。セクエンツィアは、元来アレルヤ唱allelujaの最後の a など母音を長く続けて歌う歌唱法を指していたが、次第に、その旋律に創作詩をあてるスタイルが生まれ、独立した楽曲として成立した。その後、ルターの宗教改革に対抗してカトリック教会が行ったトリエント公会議(1545-1563年)では、礼拝の標準化が行われ、公認されたセクエンツィア(4種)以外はミサでの使用が禁じられた。しかし、『スターバト・マーテル』は、非公認扱いとされた後も人気が高かったために、イタリア、フランス等で用いられ続け、1727年に、聖母マリアの七つの悲しみの祝日(四旬節中枝の主日の前の金曜日および毎年9月15日)に歌われるセクエンツィアとして、カトリック教会の公式ミサ典礼および聖務日課の祈り(現・教会の祈り)に採用され、現在に至っている。
『スターバト・マーテル』の演奏には、LPの時代から名盤とされるものが数多く揃っており、古楽の演奏スタイルのものだけでも相当な数の録音がある。古楽の演奏では、ボーイソプラノやカウンターテナーを起用する演奏方式が主流だが、近年は、ソプラノ・パートに成人男声を起用したものが登場している。


【作曲者】
 『スターバト・マーテル』には、中世・ルネサンス期の大作曲家であるジョスカン・デ・プレ、パレストリーナをはじめ、多くの作曲家が曲を付してきた。例えば、有名な作品としては、ヴィヴァルディ、A.スカルラッティ、ハイドン、ロッシーニ、ドヴォルザーク、シマノフスキ、プーランク、ペルト、ペンデレツキなどのものがある。これら数多ある『スターバト・マーテル』のなかでも最高傑作と名高いのが、2010年に生誕300年を迎えた作曲家、ペルゴレージの作品である。
ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージは、1710年1月4日、イタリア北部、マルケ州イェージに測量技師の子として生まれた。生来虚弱で、片足が不自由だったと伝えられるが、幼い頃から作曲とヴァイオリンを学び、その才能を嘱望された。イェージの貴族、ピアノッティ侯爵の援助により、ナポリのポーヴェリ・ジェズ・クリスト音楽院に進み、声楽、ヴァイオリンおよび作曲を学んだ。
1731年に音楽劇『グリエルモ・ダキタニアの改心(La conversione e morte di San Guglielmo )』を作曲、翌1732年からスティリアーノ侯爵に仕えた。同年オペラ・ブッファ『妹に恋した兄(Lo frate 'nnamorato)』で成功をおさめ、さらに、ナポリ大地震後に、ナポリ市から依頼されたミサ曲で名声を得た。1733年8月サン・バルトロメオ劇場で上演されたオペラ『誇り高き囚人(Il prigioner superbo)』の幕間劇として作曲された『奥様女中(La Serva Padrona)』は、ペルゴレージの作品中、最も有名なもののひとつである。1734年からは、マッダローニ公に仕え、ナポリ楽長に就任、1735年には、オペラ『オリンピアーデ(L'Olimpiade)』をローマで初演するが失敗し、ナポリに戻った。この頃から健康を害したペルゴレージは、ナポリ近郊の温泉保養地ポッツオーリで療養しながら、オペラ・ブッファ『フラミニオ(Il Flaminio)』を作曲し、ナポリのヌオーヴォ劇場で好評を得た。しかし、1736年にペルゴレージの病状は悪化し、ポッツォーリの聖フランシスコ修道院に身を移した。ここで、ナポリ在住貴族の集まりである悲しみの聖母騎士団(Cavalieri della Virgine dei Dolori)から、20年来歌われてきたA.スカルラッティの曲が時代遅れになったという理由で委嘱を受け、ナポリのサンタ・マリア・デイ・セッテ・ドローリ教会のために作曲したのが『スターバト・マーテル』と『サルヴェ・レジーナ(Salve Reginaめでたし女王)』である。1735年3月に、カリアティ公の令嬢で、身分違いを理由にペルゴレージとの結婚を反対され、ナポリのサンタ・キアラ教会付属修道院の修道女となっていたマリア・スピネッリが亡くなったのを機に、ペルゴレージはオペラ・ブッファの作曲を一切やめ、それまで以上に宗教音楽の作曲に精魂を傾けたという説もある。ペルゴレージは『スターバト・マーテル』と『サルヴェ・レジーナ』の二曲を完成させた後間もなく、結核により、わずか26歳の生涯を閉じた。
このあたりの夭折の天才のエピソードは、W.A.モーツァルトを彷彿とさせるが、バロック期(1600-1750) の音楽家ながらオペラ・ブッファの様式を完成させ、早くも初期古典派様式の到来を予見させたペルゴレージの名声は、没後、さらに高まり、その結果、大量の偽作が出回ることとなった。ペルゴレージの代表作は、音楽史に名を残した最初のオペラ・ブッファ『奥様女中』と『スターバト・マーテル』で、前者は、1746年と1752年にパリで上演され、イタリア音楽とフランス音楽の優劣を問うブフォン論争を巻き起こすきっかけとなった。また、後者は、最晩年のJ.S.バッハがドイツ語モテット『我が罪を贖い給え、いと高き神よ( Tilge, Höchster, meine Sünden BWV1083)』として編曲したことでも知られている。
ペルゴレージの『スターバト・マーテル』は、A.スカルラッティの確立した弦楽を伴奏とした二声部のスタイルを踏襲しつつも、ソプラノ、アルト、それぞれのソロとデュオをバランスよく配した美しい曲に仕上がっている。しかし、発表当時、あまりの流麗さから、当時の音楽界の権威で、モーツァルトに音楽教育を行ったマルティーニ神父(Giambattista Padre Martini、1706-1784)は、「宗教音楽というより、オペラ・ブッファのようだ」と厳しく批判したと伝えられる。


【歌詞】

◆『サルヴェ・レジーナ』仮訳(英語訳より重訳、公教会祈祷文を参照)

Salve Regina, Mater misericordiae, Vita, dulcedo et spes nostra salve.
めでたし、元后 憐れみ深き御母、我らの命、慰めおよび望み めでたし
Ad te clamamus, exules filii Evae, ad te suspiramus gementes et flentes.
In hac lacrymarum valle.
我ら逐謫の身なるエヴァの子なれば、御身に向かいて呼ばわり
この涙の谷に泣き叫びて ひたすら仰ぎ望み奉る
E ja ergo advocata nostra illos tuos misericordes oculos ad nos converte
ああ我らの代願者よ、憐れみの御眼もて我らを顧み給え
Et Jesum, benedictum fructum ventris fui nobis post hoc exilium ostende.
またこの逐謫の終わらんのち、尊き御子イエズスを我らに示し給え.
O Clemens, o pia, o dulcis Virgo Maria.
寛容、仁慈、甘美にまします 童貞マリア


◆『スターバト・マーテル』仮訳(公教会祈祷文を参照)

Stabat Mater dolorosa, Juxta crucem lacrymosa, Dum pendebat filius.
悲しみに沈める御母は涙にむせびて 御子の懸かり給える十字架のもとに たたずみ給えり
Cujus animam gementem, contristatam et dolentem, Per transivit gladius.
嘆き憂い悲しめるその御魂は 鋭い刃もて 貫かれ給えり
O quam tristis et afflicta Fuit illa benedicta Mater Unigeniti
天主の御独り子の 尊き御母は いかばかり憂い悲しみ給いしぞ
Quae moerebat et dolebat, Et tremebat, cum videbat Nati poenas incliti!
尊き御子の苦しみを見給える 慈しみ深き御母は 悲しみに沈み給えり
Quis est homo qui non fleret, Christi matrem si videret In tanto supplicio!
キリストの御母の かく悩み給えるを見て 誰か悲しまざる者あらん
Quis posset non contristari Piam matrem contemplari Dolentem cum Filio!
キリストの御母の御子とともに かく苦しみ給うを見て 誰か悲しまざる者あらん
Pro peccatis suae gentis Vidit Jesum in tormentis Et flagellis subditum.
聖母はイエズスが 人々の罪のため 責められ鞭打たるるを見給えり
Vidit suum dulcem Natum Marientem, desolatum, Dum emisit spiritum.
聖母はまた最愛の御子が 御死苦のうちに棄てられ 息途絶え給うを眺め給えり
Eja Mater, fons amoris, Me sentire vim doloris; Fac ut tecum lugeam.
慈しみの泉なる御母よ 我をして御慈しみのほどを感ぜしめ ともに涙を流せしめ給え
Fac ut ardeat cor meum In amando Christum Deum, Ut sibi complaceam.
我が心をして 天主たるキリストを愛する火に燃えしめ 一にその御心にかなわしめ給え
Sancta Mater, istud agas, Crucifixi fige plagas Cordi meo valide.
聖母よ、十字架に懸かり給いし御子の傷を我が心に深く刻み給え
Tui Nati vulnerati, Tam dignati pro me pati, Poenas mecum divide.
我がためにかく傷つき給いし御子の苦しみを我に分かち給え
Fac me vere tecum flere, Crucifixo condolere, Donec ego vixero
我が命ある限り 御身とともに真実の涙を流せしめ、御子が十字架に懸けられ給いし
苦しみを得しめ給え
Juxta crucerm tecum stare, Te libenter sociare In planctu desidero.
我、十字架の側に御身と立ちて、相共に嘆かんことを望まん
Virgo Virginum praeclara, Mihi jam non sis amara: Fac me tecum plangere.
乙女の中のいと清き乙女よ、願わくは、我を排け給わずして、共に嘆くを得しめ給え
Fac ut portem Christi mortem, Passionis fac consortem et plagas recolore.
我にキリストの死を負わしめ、その御苦難を共にせしめ、その御傷を深くしのばしめ給え
Fac me plagis vulnerari, Cruce hac inebrriari, Ob amorem Filii.
御子の御傷をもって我に傷つけ、その十字架と御血とをもって、我を酔わしめ給え
Inflammatus et accensus Per te Virgo, sim defensus In die judicii.
審判の日の業火より、乙女よ、御身によりて守り給え
Fac me cruce custodiri Morte Christi praemuniri Confoveri gratia.
ああ、キリストよ、我この世を去らんとき、御母によりて勝利の報いを得しめ給え
Quando corpus morietur, Fac ut animae donetur Paradisi Gloria.
我が肉身は死して朽つるとも、霊魂には、天国の永福をこうむらしめ給え
Amen
アーメン


【関連動画】
・René Clemencic(dir.) Clemencic Consort : Pergolesi: Stabat Mater


・Gérald Lesne(dir.) Il Seminario Musicale Pergolesi: Stabat Mater**


【その他の録音】
・Pergolesi: Stabat Mater
Sebastian Hennig(soprano), Rene Jacobs(contralto)
Rene Jacobs(dir.) Concerto Vocale [Harmonia mundi France]

・Pergolesi: Stabat Mater
Véronique Gens (soprano), Gérald Lesne(contralto)
Gérald Lesne(dir.) Il Seminario Musicale [Virgin Veritas 7243 5 45291 2 2]

・Pergolesi: Stabat Mater
Gillian Fisher (soprano), Michael Chance(countertenor)
Robert King(dir.) The King's Consort [Hyperion CDA66294]
*Gramophone Critics' Choice

・Pergolesi: Stabat Mater
Isabelle Poulenard(soprano), Jean-Louis Comoretto(contralto)
Jean-Claude Malgoire(dir.) La Grand Ecurie & La Chambre du Roy[AUVIDIS/ASTREE E8556](現在、廃盤)

・Pergolesi: Stabat Mater
Gemma Bertagnolli(S), Sara Mingardo(Ms)
Rinaldo Alessandrini(dir.) Concerto Italiano[OPUS111 OP30160](現在、廃盤)


・Pergolesi: Stabat Mater, Laudate Pueri, Confitebor
Julio Lezhneva(S), Philippe Jarouossky(CT)
Diego Fasolis(dir.) Coro della Radiotelevisione Svizzera, I Barocchisti [Erato 3191472](2013)



【参考サイト】
◆IMSLP / ペトルッチ楽譜ライブラリー http://imslp.org/wiki/
(クラシック音楽の楽譜が無料でダウンロードできるサイト。日本語解説あり)


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