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マショー『ノートルダム・ミサ』曲 [Machaut]

■Dominique Vellard(dir.) Ensemble Gilles Binchois:Guillaume de Machaut 《Messe de Notre-Dame》
HARMONIC RECORDS [H/CD 8931]

HCD8931f.JPG

【演奏】
ドミニク・ヴェラール指揮 アンサンブル・ジル・バンショワ

ミサ楽章;
アンドレアス・ショル(CT)
ゲルト・テュルク, エマニュエル・ボナルド(T)
ジャック・ボナ(B)

グレゴリオ聖歌&朗唱
ドミニク・ヴェラール, エルヴェ・ラミー(T)
フィリプ・バロワ(Br)
ヴィレム・デ・ヴァール,ジャック・ボナ(B)

【演奏者】
アンサンブル・ジル・バンショワは、1978年に創設された中世音楽アンサンブルで、線の細い、柔らかな発声を特徴としている。指揮者のドミニク・ヴェラール、ヴェラール夫人のアンヌ・マリー・ラブロードを中心に、エマニュエル・ボナルド、ブリジット・レーヌ(カウンター・テナーのジェラルド・レーヌの妹)などを加え、フランス文化省等の後援を受け、主にヨーロッパを中心に演奏活動を行っている。ドミニク・ヴェラールは1953年生まれで、ヴェルサイユ音楽院卒業後、1982年からスイスのバーゼル音楽院の古楽部門であるスコラ・カントルム・バジリエンシスで教鞭をとっているが、90年代以降はその教え子やフランス以外の国籍のアーティストが録音に参加する機会も増えている。録音は、HARMONIC RECORDS、Cantus以外に、Virgin Classics、Almaviva、Glossa等、多社にわたり、ヴェラール単独の録音も多い。


【曲目】
ギヨーム・ド・マショー(Guillaume de Machaut, c.1300-1377)
『ノートルダム・ミサ』曲
グレゴリオ聖歌 イントロイトゥス
ガウデアームス・オムネス われらみな主において歓喜せん
キリエ
グローリア
朗唱:コレクツィオ 主は汝とともにあり
朗唱:エピストゥルム 智恵の書より朗読
グレゴリオ聖歌 グラドゥアーレ つねに真理によりて行い
グレゴリオ聖歌 アレルヤ マリアは昇りて天に迎え入れられん
朗唱:エヴァンジェリウム[福音書] イエスがある町に入り給いしとき
クレド
グレゴリオ聖歌 オフェルトリウム 祝福があなたの口より広められ
朗唱 プレファツィオ 永遠に
サンクトゥス
ベネディクトゥス
朗唱 天にまします我らの父よ
アニュス・デイ
朗唱 コンムニオ この世の女王
朗唱 ポストコンムニオ この祈祭に参ぜしのち
イテ・ミサ・エスト

第二次世界大戦で失われたランスのノートルダム大聖堂碑文を根拠に、聖母マリア昇天の祝日のミサを想定し、固有文を挿入した演奏。
録音:1990年9月、フランス、セーヌ-エ-マルヌ県シャンポーのサン=マルタン参事会教会。
Harmonic Recordsは、選曲と演奏、録音、ジャケット装丁全てにこだわったレーベルとして定評があったが、そのこだわりが諸費用の高騰を招いたといわれ、現在は活動を停止している。アンサンブル・ジル・バンショワの音源の一部は、スペインのCantusレーベルから再発売されたが、Cantusレーベルも活動を停止した模様。
2011年秋に、ヴェラール指揮アンサンブル・ジル・バンショワ演奏マショー「ノートルダム・ミサ」曲、「愛の妙薬」、「ナヴァール王の審判」を収録した、マショー宗教・世俗歌曲集がBRILLIANT CLASSICS レーベルから再発売(BRILLIANT CLASSICS 94217、輸入盤3枚組)されている。


【作曲者】
ギヨーム・ド・マショー(Guillaume de Machaut, c.1300-1377.4.13)は、フランス、シャンパーニュ地方のランスもしくはその近郊に生まれた詩人、作曲家。貴族の出身であるマショーは、聖職者として教育を受けており、パリで学んだ可能性もあると考えられている。1335年に出された教皇ベネディクト12世(c.1285-1342.4.25)の大勅書により、マショーは、1323年頃からボヘミア王、ルクセンブルク伯ヨハン<盲目王>の秘書官として、ボヘミアはじめヨーロッパ各地に従軍したことが知られる。マショーは、ルクセンブルク伯ヨハンに仕える一方で、次第に詩作と作曲に力を注ぐようになったと見られ、1330年に、ヴェルダン、1332年にアラス、1333年にはサン=カンタンの司教座聖堂参事会員となった。さらに、1334年ないし1337年には、兄弟のジャンと同じく、歴代フランス国王の聖別戴冠式が行われたことで有名なランスのノートルダム大聖堂(司教座聖堂)参事会員となった。
百年戦争中の1346 年7月29日にクレシーの戦いでルクセンブルク伯ヨハンが戦没すると、その王女で、後のフランス国王ジャン2世<善良王>妃であるボンヌ・ド・リュクサンブールに仕えた。1349年、ペスト禍によりボンヌが崩御した後は、ノルマンディー公シャルル(フランス王シャルル5世<賢明王>)、ブルゴーニュ公フィリップ<豪胆公>、華麗な時祷書で知られるベリー公ジャンなど、いずれもボンヌゆかりの王侯貴族に仕えた。マショーは、1340年以降、晩年までランスの地で過ごしたと見られ、兄弟のジャンとともにノートルダム大聖堂で永遠の眠りについている。
マショーは、14世紀フランスにおいて最大の詩人および作曲家として知られ、詩作品ではボンヌの登場する『運命の癒薬』(Remède de Fortune,1341頃)、『獅子物語』(Dit du lyon,1342)、10代の少女ペロンヌ・ダルマンティエールとのプラトニックな恋を主題とした自伝的作品と言われる『真実の物語』(Le Voir Dit,1362-65)が特に有名で、ホイジンガの『中世の秋』にも引用された。イギリスの詩人、ジェフリー・チョーサー(Geoffrey Chaucer, c.1343-1400.10.25)もまたマショーの詩作品に敬意をはらった人物のひとりと伝えられる。
マショーの代表作は『ノートルダム・ミサ』曲で、中世音楽のなかでも特に有名な曲である。1349年のペスト大流行後、マショー自ら音楽作品をいわゆる「マショー写本」に集大成したこともあって、現在残されているマショー作品は、ラテン語典礼文によるモテトゥスも含め、14世紀の作曲家では最多の140曲余りに及んでいる。ノートルダム大聖堂参事会員として聖職禄を受け、典礼時の音楽等を担っていたにもかかわらず、マショーの音楽作品には、宗教曲よりも、フォルム・フィクス(定型)に基づく世俗歌曲の方が多い。マショーの世俗歌曲には、トルヴェールの伝統を受け継ぎ、宮廷風の愛などを歌った単声のレー、ヴィルレや、多声のヴィルレ、ロンド、バラード等がある。マショーは1359-1360年のランス包囲戦の折に最後のモテトゥス三曲を作曲したとされるが、その音楽作品に世俗歌曲が多いのは、百年戦争の狭間に華開いた宮廷文化のなかで、王侯貴族から宮廷生活を謳歌するための世俗歌曲を求められたという事情による。マショーに対する後世の評価は、端的に言えば、詩作と作曲の両方で高い名声を得た最後の人物ということに尽きるといえ、マショー以降、詩人と音楽家は別々の道を歩むことになる。


【作品】
ローマ・カトリック教会の典礼は、「最後の晩餐」に由来するミサ(司祭がキリストの血と肉に聖変化させたパンと葡萄酒を信徒が拝領する儀式)、および、旧約聖書の詩篇などを唱える聖務日課に大別される。ローマ・カトリック教会では、教会の最初期から典礼に宗教音楽が組み込まれており、8世紀から10世紀頃にかけて、中東から西欧に至る広範な地域の聖歌の諸要素を取り入れたかたちで、単旋律、無伴奏のグレゴリオ聖歌が発展をみたと考えられている。グレゴリオ聖歌の名称は、典礼の整備や教会改革を行ったことでも知られる教皇グレゴリウス1世(c.540-604.3.12)が、聖歌の編纂を行ったと広く信じられていたことによる。
ローマ・カトリック教会の典礼では、当初もっぱら典礼文がグレゴリオ聖歌や単声による朗唱方式によって歌われた。ミサの典礼文には、復活祭やクリスマスなどの特定の礼拝に合わせてその都度変化する固有文と常に同一の式文である通常文があるが、14世紀以降には、(1)キリエ(Kyrie)、(2)グロリア(Gloria)、(3)クレド(Credo)、(4)サンクトゥス(Sanctus)、(5)ベネディクトゥス(Benedictus)、(6)アニュス・デイ(Agnus Dei)、(7)イテ・ミサ・エスト(Ite Missa Est)から成るミサ通常文楽章が、それぞれ単独の多声曲として作曲されることが一般的となった。さらに時代が下るにつれて、次第にグロリアとクレドなどのミサ通常文楽章を一対として扱う組ミサや、『トゥルネのミサ』や『バルセロナ・ミサ』のように、複数の作曲家によるミサ通常文楽章をキリエからアニュス・デイまで一曲ずつ集め、ミサ・サイクルとして整えた写本が現れるようになり、「ミサ曲」の概念が生まれるに至った。
ひとりの作曲家がミサ通常文楽章全てを作曲したものは、通作ミサ曲と呼ばれるが、1360年代前半の作曲とみられるマショーの『ノートルダム・ミサ』曲は、音楽史上、現存する最古の通作ミサ作品である。
14世紀のフランス音楽は、北フランス出身のフィリップ・ド・ヴィトリ(Philippe de Vitry, 1291-1361)の著した音楽理論書にちなんで、アルス・ノヴァの音楽と呼ばれている。四声で書かれたマショーの『ノートルダム・ミサ』曲は、まさにアルス・ノヴァの作曲技法による代表的な作品であり、ホケトゥスの技法や複雑なリズムの多用などの特徴がはっきりとあらわれている。
ホケトゥスとは、元来はしゃっくりを意味する言葉で、旋律を短い音符に細かく区切り、複数の歌手が一音一音交互に歌うことで、補完的にひとつのメロディーラインを編み出す奏法を指し、それがグレゴリオ聖歌とも、後に登場するフランドル楽派のミサ曲とも全く異なる、独特な響きを持った魅力的な音楽を生む要因となっている。


【歌詞】

◆ミサ曲通常文仮訳(英語訳より重訳、日本カトリック教会式文参照)

◇キリエ(Kyrie)
Kyrie eleison
主よ、憐れみ給え
Christe eleison
キリストよ、憐れみ給え
Kyrie eleison
主よ、憐れみ給え

◇グロリア(Gloria)
Gloria in excelsis Deo
天のいと高きところには神に栄光あれ
Et in terra pax hominibus bonae voluntatis
地には善意の人に平和あれ
laudamus te
我らは主を誉め
benedicimus te
主を讃え
adoramus te
主を拝み
glorificamus te
主を崇め奉らん
gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam
主の大いなる栄光ゆえに 感謝し奉る
domine deus, rex caelestis, deus pater omnipotens
神なる主、天の王、全能の父なる神よ
domine fili unigenite ihesu christe
主のお独り子、イエス・キリストよ
domine deus agnus dei filius patris
神なる主、神の仔羊、父の御子よ
qui tollis peccata mundいmiserere nobis
世の罪を除き給う主よ、我らを憐れみ給え
qui tollis peccata mundi suscipe deprecationem nostram
世の罪を除き給う主よ、我らの願いを聞き入れ給え
qui sedes ad dexteram patris miserere nobis
父の右に座し給う主よ、我らを憐れみ給え
quoniam tu solus sanctus
主のみ聖なり
tu solus dominus tu solus altissimus
主のみ王なり、主のみいと高き
ihesu christe
イエス・キリストよ
cum sancto spiritu in gloria dei patris
聖霊とともに 父なる神の栄光のうちに
Amen
アーメン

◇クレドCredo
Credo in unum deum
我は信ず 唯一の神
Patrem omnipotentem
全能の父
factorem celi et terre visibilium omnium et invisibilium
天と地、見えるもの、見えざるもの全ての造り主を
et in unum dominum ihesum christum
我は信ず 唯一の主 イエス・キリスト、
filium dei unigenitum
神のお独り子を
et ex patre natum ante omnia secula
世のすべてのものよりさきに父から生まれ
deum de deo lumen de lumine deum verum de deo vero
神よりの神、光よりの光、まことの神よりのまことの神を
genitum non factum consubstantialem patri
造られずして生まれ、父と一体である
per quem omnia facta sunt
万物の造り主を
Qui propter nos homines
我ら人類のため
et propter nostram salutem descendit de celis
我らの救いのために 天より下り
et incarnatus est de spiritu sancto ex maria virgine
聖霊によりて 聖母マリアから御体を受け
et homo factus est
人となられし方を
crucifixus etiam pro nobis
我らのために十字架にかけられ
sub pontio pylato passus et sepultus est
ポンテオ・ピラトのもとに 苦しみを受け、葬られ給えり
et resurrexit tertia die secundum scripturas
聖書に書かれた通り、三日目に蘇られ
et ascendit in celum: sedet ad dexteram patris
天に昇りて、父なる神の右に座し給えり
et iterum venturus est cum gloria
主は 栄光のうちに再び世に来られ
iudicare vivos et mortuos
生ける者と死せる者を裁き給う
cujus regni non erit finis
主の国は終わることなし
Et in spiritum sanctum dominum et vivificantem
我は信ず 主なる、生命の与え主たる精霊
qui ex patre filioque procedit
聖霊は 父と子より出で
qui cum patre et filio simul adoratur, et conglorificatur
父と子とともに、拝され、あがめられ
qui locutus est per prophetas
預言者により語られ給えり
et unam sanctam catholicam et apostolicam ecclesiam
我は信ず 唯一の、聖なる、公の使徒継承の教会
confiteor unum baptisma in remissionem peccatorum
我は罪の赦しとなる唯一の洗礼を認め
et exspecto resurrectionem mortuorum
死者の復活と
et vitam venturi seculi
来世の生命を待ち望まん
Amen
アーメン

◇サンクトゥスSanctus
Sanctus, sanctus, sanctus, dominus deus sabaoth
聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の神なる主
Pleni sunt celi et terra gloria tua
天地は主の栄光に満てり
Osanna in excelsis
天のいと高きところにホザンナ
Benedictus qui venit in nomine domini
誉むべきかな、主の御名によって来たる者
Osanna in excelsis
天のいと高きところにホザンナ

◇アニュス・デイAgnus Dei
Agnus dei qui tollis peccata mundi miserere nobis
世の罪を除かれる神の仔羊よ、我らを憐れみ給え
Agnus dei qui tollis peccata mundi: miserere nobis
世の罪を除かれる神の仔羊よ 我らを憐れみ給え
Agnus dei qui tollis peccata mundi: dona nobis pacem
世の罪を除かれる神の仔羊よ、我らに平安を与え給え


【参考動画】

◆ヴェラール指揮アンサンブル・ジル・バンショワ:マショー『ノートルダム・ミサ』曲


◆ヴェラール指揮アンサンブル・ジル・バンショワ:マショー『ノートルダム・ミサ』曲



【その他の録音】
・Jeremy Summerly(dir) Oxford Camerata : Guillaume de Machault La Messe de Nostre Dame, Songs from Le Voir Dit [NAXOS 8.553833]

・Marcel Perès(dir) Ensemble Organum : Guillaume de Machault La Messe de Notre Dame
 [Harmonia mundi France HMC901590]

・Paul Hillier(dir.) The Hilliard Ensemble : Guillaume de Machault Messe de Nostre Dame, Le Lai de la Fonteinne, Ma Fin est mon commencement [Hyperion CDA66358]

・René Clemencic(dir.) Clemencic Consort : Guillaume de Machaut La Messe de Nostre Dame
[Arte Nova 74321 85 289-2]

・Mary Berry(dir.)Schola Gregoriana of Cambridge : Guillaume de Machault Messende Nostre Dame, Felix Virgo, Inviolata [Herald HAVP312] (2006)

・Antoine Guerber(dir.) Diabolus in Musica : Machaut La Messe de Nostre Dame
[Alpha ALPHA132](2008)



【参考サイト】
◆IMSLP / ペトルッチ楽譜ライブラリー http://imslp.org/wiki/
(クラシック音楽の楽譜が無料でダウンロードできるサイト。日本語解説あり)



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