SSブログ

アレグリ『ミゼレーレ』 [Allegri]

■The Tallis Scholars: Allegri MISERERE
Gimell CDGIM 339 (輸入盤・旧盤)
G4549392f.JPG

【演奏】
ピーター・フィリップス指揮
タリス・スコラーズ

【曲目】
・グレゴリオ・アレグリ(Gregorio Allegri,c.1582-1652)
『ミゼレーレ』

・ウィリアム・ムンディ(William Mundy, c.1529-1591)
『天の父の声は』

・ジョバンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina,c.1525-1594)
『教皇マルチェルスのミサ』

録音:1980年、オックスフォード、マートン・カレッジ礼拝堂。
旧盤は、1981年にイギリスHMVのクラシック音楽チャート第1位となるなどヒットを記録。
現在は、旧盤と録音内容の同じ25周年記念盤(Gimell GIMSE401)、及び、新録音盤(Gimell CDGIM041)が発売中(ただし、新録音盤では、ムンディの『天の父の声は』は収録されず、代わってデボラ・ロバーツ版のアレグリ『ミゼレーレ』が収録されている)。
タリス・スコラーズの音源を発売する目的で設立されたギメル・レコード、ナクソス・ミュージック・ライブラリー等では、ダウンロード販売も展開されている。

Gimell Records http://www.gimell.com/
Naxos Music Library(無料試聴あり)  http://ml.naxos.jp

【演奏者】
タリス・スコラーズは、1973年に、ピーター・フィリップス(Peter Phillips)によって設立されたイギリスの声楽アンサンブル(混声合唱団)。タリス・スコラーズとは、16世紀イギリスの作曲家トマス・タリス(Thomas Talis, c.1505-1585)の音楽を学びきわめる人々を意味する。
その名の通り、ルネサンス期のミサ曲やモテットなど、教会音楽を主要なレパートリーとしており、ノンビブラートの透明な声、音程の正確さ、和声の完璧な調和、明瞭な旋律線の追求などで知られる。イギリスの作曲家では、トマス・タリスの他に、ウィリアム・バード(William Byrd,1543-1623)、フランドルの作曲家では、ジョスカン・デ・プレ(Josquin Desprez,c.1450/1455-1521)、スペインの作曲家ではトマス・ルイス・デ・ヴィクトリア(Tomas Luis de Victoria,1548-1611)など、いずれも演奏には定評がある。また、ハインリッヒ・イザーク(Heinrich Isaac,c.1450-1517)をはじめ、あまり知られていない作曲家の作品の紹介にも積極的である。
タリス・スコラーズは、教会やコンサート・ホール等での演奏活動と並行して、独自レーベルであるギメル・レコードで多数の録音を行っており、古楽界で初めて『グラモフォン』誌“Record of the Year”に選ばれるなど、受賞歴も数多い。タリス・スコラーズは、1994年に、システィーナ礼拝堂で行われたミケランジェロ「最後の審判」の修復完成記念行事に招聘され、『ミゼレーレ』を演奏した。同年にはまた、バシリカ様式教会建築の代表例として世界遺産に登録されているローマのサンタ・マリア・マジョーレ大聖堂で、同聖堂ゆかりのパレストリーナ没後400年記念コンサートを行った。サンタ・マリア・マジョーレ大聖堂は、システィーナ礼拝堂聖歌隊ほか有名教会の楽職を歴任し、教会音楽の父とも呼ばれる偉大な作曲家、パレストリーナがそのキャリアの初期に聖歌隊員を務めた。このパレストリーナ没後400年記念コンサートは、ヴァチカンおよびローマ市当局の協力を得て、大聖堂周辺の通行を規制し、大聖堂の窓を二重にするなど防音に配慮して行われたもので、ローマ教皇庁関係者や各国のヴァチカン使節、イタリア大使等も列席した。このパレストリーナ没後400年記念コンサートの模様は、レーザーディスク発売後、数年間廃盤となっていたが、2004年にDVD化されている。
オックスフォード大学でルネサンス音楽を修めたフィリップスは、ルネサンス教会音楽の研究者としても活動しており、その成果物としては、ギメル・レコードから出版された『1549年から1649年のイギリス教会音楽(English Sacred Music 1549-1649)』等がある。


【作曲者】
グレゴリオ・アレグリ(Gregorio Allegri,c.1582-1652.2.7)は、イタリア、ローマ生まれの司祭、作曲家。画家コレッジオの一族の出身で、ジョバンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina,c.1525-1594)の門人、ジョヴァンニ・マリア・ナニーノ(Giovanni Maria Nanini)に作曲を学び、ローマのサン・ルイジ・ディ・フランチェージ教会の聖歌隊員を経て、1607年にフェルモ大聖堂楽長に就任した。アレグリの作品には、1618年から1619年に出版された2巻の『教会コンチェルト』及び1621年に出版された2巻の『モテット集』がある。その作品が教皇ウルバヌス8世の目にとまり、1629年12月6日、アレグリは、ヴァチカン宮殿に付属するシスティーナ礼拝堂聖歌隊に迎えられ、終身在職した。『ミゼレーレ』は、アレグリの最も有名な作品であり、未発表のモテット、ミサ曲、器楽曲等も多数残されている。


【作品】
『ミゼレーレ』は、旧約聖書の詩編51(50)(ダビデ王の悔悛の祈り)をテキストとする9声部の合唱曲で、4声部(ソプラノ2、アルト、バス)と空間的に離れた5声部(ソプラノ2、アルト、テノール、バス)が交唱形式で歌い、バスの独唱を挟み、最終節で初めて9声部となる。自身、テノールまたはカストラートであったと伝えられる作曲者アレグリは、当時の教会音楽としては際立った高音を用い、まさに昇天していくかのような崇高な印象を与えることに成功している。
1630年代に『ミゼレーレ』の実演に接した教皇ウルバヌス8世は、そのあまりの美しさに門外不出の秘曲とした。そのため、『ミゼレーレ』は、システィーナ礼拝堂において、毎年、復活祭に先立つ聖務週間の朝課で、教皇、枢機卿をはじめとする限られた聴衆のみが耳にすることを許される曲となり、写譜や楽譜の持ち出しは、破門をもって厳しく制限された。カトリック教会では、復活祭の前週を聖週間としてキリストの受難をしのび、その最後の三日間(聖水曜日・聖木曜日・聖金曜日)の深夜に行われる朝課は、一般に、曲の進行にあわせて、13人の使徒を象徴する13本の蝋燭を1本ずつ消していき、最後にあたりをイエス・キリストの死を象徴する深い闇が包むような次第で行われ、カトリック教会の総本山であるシスティーナ礼拝堂では、聖水曜日および聖金曜日の朝課で『ミゼレーレ』が演奏されてきた。2008年に放送されたBBCの番組で、指揮者のハリー・クリストファーズとザ・シックスティーンは、アレグリの活動した時代近くまで遡るヴァチカンの楽譜を用い、現在知られているものよりシンプルな『ミゼレーレ』の一部を演奏しているが、*ミケランジェロ作の天井画『天地創造』や祭壇画『最後の審判』で知られる荘厳なシスティーナ礼拝堂の朝課という限られた演奏機会ともあいまって、無伴奏の賛歌『ミゼレーレ』が聴衆に大きなインパクトを与えたであろうことは容易に想像できる。
『ミゼレーレ』にはまた、1770年に、当時14歳だったW.A.モーツァルトが父レオポルトとローマを訪れた際、この曲を一度ないし二度聴いて、正確な採譜に成功したという有名なエピソードがある。ときの教皇クレメンス14世は、秘曲を公にしたモーツァルトの行為を咎めなかったばかりか、むしろその才能をたたえ、音楽家としては、オルランドゥス・ラッスス(Orlandus Lassus / Orlando di Lasso, c.1532-1594.6.14)に次いで史上二人目の教皇庁騎士に任じ、黄金拍車勲章を授けた。実際には、モーツァルトは『ミゼレーレ』をシスティーナ礼拝堂外に持ち出した最初の人物ではなく、1730年頃には、既に『ミゼレーレ』の写譜が出回っていたという説が有力であるが、1770年に旅行中のモーツァルト父子と接触し、モーツァルトの採譜した『ミゼレーレ』の楽譜を入手したイギリスの音楽学者チャールズ・バーニー博士が、翌1771年に『ミゼレーレ』を含む教皇庁の楽譜集を出版したのを機に、『ミゼレーレ』はヨーロッパ中に広まった。『ミゼレーレ』は、後に、フェリックス・メンデルスゾーンやフランツ・リストにより取り上げられたことでも知られている。
『ミゼレーレ』は、教会音楽のなかで最も人気のある作品のひとつで、現在もシスティーナ礼拝堂の聖務週間に歌われているほか、ヨーロッパの多くの教会で聖水曜日に演奏されるのが恒例となっている。『ミゼレーレ』は、ルネサンス音楽末期の代表的作品としてしばしば録音されているが、実際には、ルネサンス音楽のポリフォニー様式(和声的様式)を採用したバロック期の作品で、パレストリーナ『教皇マルチェルスのミサ』と同様、歌詞を聴き取りやすくする作曲上の意図が感じ取れる。このあたりが、『ミゼレーレ』が教皇のお膝元にあって保守的なローマ楽派の代表作と評される所以でもある。


【歌詞】

◆『ミゼレーレ』仮訳(英語訳より重訳、『聖書 新共同訳』参照)

Miserere mei Deus, secundum magnam misericordiam tuam et secundum multitudinem miserationum tuarum dele iniquitatem meam.
神よ 憐れみ給え, 御慈しみをもって 深い御憐れみをもって 背きの罪を拭い給え.
Amplius lava me ab iniquitate mea et a peccato meo munda me.
我が咎をことごとく洗い 罪より清め給え.
Quoniam iniquitatem meam ego cognosco et peccatum meum contra me est semper.
背きの罪を我は知れり 我が罪は常に我が前にあり.
Tibi soli peccavi et malum coram te feci, ut iustificeris in sermonibus tuis et vincas cum iudicaris.
御身に ただ御身のみに我は罪を犯し,御目に悪事と見られることをせり
御身の言われることは正しく 御身の裁きに誤りはなき.
Ecce enim in iniquitatibus conceptus sum et in peccatis concepit me mater mea.
我は咎のうちに産み落とされ 母が我を身籠りしときも 我は罪のうちにあり.
Ecce enim veritatem dilexisti: incerta et occulta sapientiae tuae manifestasti mihi.
御身は我が心のうちのまことを喜ばれ 知恵を悟らせ給う.
Asperges me hyssopo et mundabor; lavabis me et super nivem dealbabor.
ヒソップの枝で我が罪を払い給え,我の清くなるよう
我を洗い給え,雪よりも白くなるよう.
Auditui meo dabis gaudium et laetitiam et exsultabunt ossa humiliate.
歓喜の声を聞かせ給え 御身によって砕かれしこの骨が喜び躍るよう.
Averte faciem tuam a peccatis meis et omnes iniquitates meas dele.
我が罪に御顔を向けず 我が咎をことごとく拭い給え.
Cor mundum crea in me, Deus, et spiritum rectum innova in visceribus meis.
神よ、我に清き心を創り ゆるがなき霊を新たに授け給え
Ne proiicias me a facie tua, et spiritum sanctum tuum ne auferas a me.
御前から我を退けず あなたの聖なる霊を我より取り上げることなかれ.
Redde mihi laetitiam salutaris tui et spiritu principali confirma me.
御救いの喜びを我に味わわせ 自由なる霊によって支え給え 
Docebo iniquos vias tuas: et impii ad te convertentur.
御身に背く者たちに 御身の道を我は教えん 罪人が御もとに立ち帰るように.
Libera me de sanguinibus Deus, Deus salutis meae, et exsultabit lingua mea iustitiam tuam.
神よ、我が救いの神よ 流血の災いから我を救い給え 恵みの御業をこの舌は喜び歌わん.
Domine labia mea aperies, et os meum annuntiabit laudem tuam.
主よ、我が唇を開き給え この口は御身への賛美を歌わん.
Quoniam si voluisses sacrificium dedissem utique; holocaustis non delectaberis.
御身が生贄を喜ばれ 燔祭が御旨にかなうなら それらを我は捧げん
Sacrificium Deo spiritus contribulatus: cor contritum et humiliatum, Deus, non despicies.
神の求める生贄は打ち砕かれし心 打ち砕かれ悔いる心を 神よ、御身は侮られ給わず.
Benigne fac, Domine, in bona voluntate tua Sion, ut aedificentur muri Ierusalem.
御旨のままにシオンを恵み エルサレムの城壁を再び築き給え.
Tunc acceptabis sacrificium iustitiae, oblationes, et holocausta: tunc imponent super altare tuum vitulos.
そのとき、正しく生贄や献げ物、燔祭が御身に喜ばれ 
御身の祭壇に雄牛が捧げられん.


【関連動画】
◆タリス・スコラーズ:アレグリ『ミゼレーレ』





【その他の録音】
・Harry Christophers(dir.) The Sixteen : Allegri Miserere, Palestrina Missa Papae Marcelli
  [Coro COR16014]

・Bernard Fabre-Garrus(dir.) A Sei Voci : Allegri Miserere, Messe/Mass Motets
[AUVIDIS/ASTREE]

・ Andrew Carwood(dir.) The Cardinall's Musick : Allegri Miserere & the music of Rome
[Hyperion CDA67860](2011)
*BBC Music Magazine Choral & Song Choice 2011



【参考サイト】
◆IMSLP / ペトルッチ楽譜ライブラリー http://imslp.org/wiki/
(クラシック音楽の楽譜が無料でダウンロードできるサイト。日本語解説あり)



共通テーマ:音楽

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。